熊本地震の教訓 ~全ての建物に構造計算を!

ユーザー 木の家プロデュース 明月社 山岸飛鳥 の写真

標題の「全ての建物に構造計算を」という文字を見て、??と思った人も多いだろう。
構造計算してない建物なんてあっていいの? と。
 
それがビックリ、2階建て木造住宅のほとんどは、構造計算はされていない。
3階建ては義務だけど、2階建てまでは任意なので、ほぼ全てが構造計算無しで建てられている。
 
建築基準法でそのように決まっているので、違法でも手抜きでもない。
建物の大きさによって筋交い(耐震壁)の量や金物の使い方が決まっているだけで、それで本当に足りているのかとか、柱や梁の大きさは大丈夫か、とかの検証はされていない。
 
もちろん、建築基準法の規定はそれなりの実験などから決められているので、法律通りに建てられていれば ただちに影響はない。
しかし、イザという時にどうなんだ、ということが、熊本地震で明らかになってしまった。
 
熊本地震では、実は建築業界では驚愕の事態が起きてしまった。
それは、「耐震等級2」の家が完全に倒壊した という事件だ。
 
「耐震等級2」というのは、上に書いた建築基準法の規定よりも、25%増しの強さにしてあり、それ以外にも色々と強度をバージョンアップしたもの。住宅の品質確保の促進等に関する法律という長ったらしい名前の法律で決められている。(略して品確法)
そのバージョンアップ住宅が倒壊してしまったのだ。
 
私自身も、いつも耐震等級2で構造計算をしているので、これは衝撃のニュースだったが、原因を詳しく知るにつれて、なるほどと思えてきた。
 
※写真はキロクマ!というサイトよりお借りした熊本地震の記録写真です。本稿で取り上げている耐震等級2の住宅のものではありません。

ここでは、ザックリと耐震等級2の住宅が倒壊した原因について指摘されていることを書いておきたい。
①軟弱地盤だった
②熊本県は地震が起きにくい地域に指定されていて、そもそも基準が低かった
③耐震等級2ではあるが、構造計算をしていなかった
 
①については、この地域が阿蘇山の火山灰地層でもともと軟弱な上に、この住宅の宅地は5mほど盛り土をしていたので、かなり軟弱な地盤だったのは間違いない。建築基準法では、軟弱地盤の場合は耐震壁を5割増しにせよ、となっているのに、この住宅ではしていなかった、というのが指摘されている。
 
ただ、杭は施工されているので、必ずしも設計ミスとは言えないし、また、地面の表層が軟弱だからといって家が壊れやすいとは限らない、という調査結果も出ている。なので、これが一番大きな原因だったとは考えにくい。
 
②については、火の国と言われる熊本がなんで地震がおきにくい地域に指定されているのか理解に苦しむが、国の規定でそうなっている。今回の震源地域は、普通の地域の90%の耐震強度でOKということになっている。
だから、25%増しの耐震等級2も、実際は1.25x0.9=1.125 で12.5%増しでしかなかった。
とは言え、12.5%は割り増ししていたのだから、これが主原因とは考えにくい。
 
③について。耐震等級2の認定には、構造計算をするやり方と、しない簡易のやり方がある。
この住宅は、簡易のやり方で認定をとっていたようだ。
 
日経ホームビルダーという専門誌で、この家の設計を正式の構造計算(許容応力度計算)にかけたらどうなるかいう検証をしたところ、なんと軒並みNGとなった。
細かい説明は専門的になりすぎるので省くけれども、構造計算無しでOKの建物でも、構造計算すると軒並みNGになり、そして本当に倒壊してしまった、というのが、この耐震等級2住宅の倒壊事件なのだ。
 
つまり、耐震等級2が弱いということではなく、構造計算を省略した等級2は、本当の等級2になっていなかったということ。
耐震は、どこまで求めるのかが本当に難しいけれど、震度7が2回来ても倒壊して圧死するのはイヤだ、というレベルであれば、正規の構造計算をして間違いない工事をすれば、まず大丈夫だということが、未曾有の震災だった熊本地震の教訓である。
 
私は、たとえ平屋であっても耐震等級2以上(相当)で構造計算をしている。(自分でやっている)
「耐震等級2が倒壊」というニュースを見た時には寒気がしたが、こうして詳細に調べてみて安心した次第。

これから家を建てる方には、少し費用はかかるけれども、必ず構造計算をすることをお勧めしたい。