蓄熱式床暖房

ユーザー 有限会社 アヴニール設計 伊藤 禎 の写真

初めて蓄熱式床暖房を採用したのは平成10年(1998年)の自宅です。三菱電線「あった快」と言う商品で、ヒートパネルの両面にアイスノンのように蓄熱材でサンドイッチしたものを、従来のヒートパネル・シート敷き込むのと同様、床仕上げ(床暖房対応フローリング)の真下に敷き込み、その下にカネライトフォーム等断熱材で熱の流出を妨げるというやり方でした。施工範囲は、LDKだけで、4KWを少し下回るくらいで、朝方、電気温水器の通電、食器洗い機、炊飯器の電源が入ると、ブレーカーが飛ぶことも有りました。当時は地熱による基礎断熱及び床下気密工法と言う概念はまだ有りませんでしたが、OMソーラーでは蓄熱コンクリート、通気断熱WB工法では形状記憶合金換気システムという概念は有りました。次世代省エネという言葉が世に出始めたのもこの頃です。電力会社による電気温水器(深夜電力併用のオール電化)等のイニシャル・ランニングに関わる補助金制度は完備していましたが、深夜電力利用の蓄熱式床暖房に関してはまだまだ先の話でした。
「室内に吹抜を設けたい。しかし、空調効率が悪いし寒い家になる。」そのような思いを解決するためにも是非床蓄熱式暖房を。備長炭で健康住宅・省エネ住宅・間伐材利用の合成梁パネル工法を掲げ、建設会社・建材販売店・住宅販売会社・木材接合金物メーカーと「住まい研究会」を立ち上げ、その試作第1号で自宅建設を提供しました。自宅だからこそ試行出来、それら良いところ悪いところを認識・さらなる経験を積みながら、行く年月、土壌蓄熱式床暖房~サーマスラブ~と出会ったのは、平成22年(2010年)、平成23年(2011年)に竣工したの春日の家です。それまで培ってきた間違いない方向性と、長期優良住宅認定と合わせ、基礎断熱床下気密と土壌蓄熱式床暖房は、共に理にかなった工法だと言う事を実証することが出来ました。九州の平地部12月~3月の間、毎日が全館暖房住宅が実現します。電力会社の協力を得られる中、当時主力だった太陽光発電より元を取るんじゃないかと思った次第です。ただ、デメリットは、建物1階部分の床下隅から隅まで敷き詰めるので、電力消費量が半端じゃなく、電力会社の協力無しではランニングコストが大変なことです。
写真左3枚・・・平成10年(1998年)今津留の家(自邸)
写真右4枚・・・平成23年(2011年)南春日の家(ファーマシー安東)

東日本大震災、平成23年(2011年)の際には、まだ3月の寒い中、土壌蓄熱式床暖房(サーマスラブ)は数日間冷え込みも無く、電力復旧するまでの間、実に活躍したそうです。しかしその反面、原発ストップの影響も有り、深夜電力料金の値上げ、さらには新電力会社の台頭により、電力会社からの補助金減額(既存ユーザー)又は中止(2016年3月からの新規ユーザー)等、蓄熱式床暖房消費者にとっては厳しい環境に有るようです。
電熱蓄熱式床暖房の契約電力1KW当たり約200円有った深夜電力活用補助金が0円になることは非常に大きな打撃です。ちなみに前述、南春日の家が、約22KW×200円=4400円/毎月(使用しない月も含む)有ります。
電力会社の補助制度が無くなった今、蓄熱式床暖房は新たな転機を迎えています。商品はシンプルで、その考え方も非常に良いものなので、今後は、全館暖房にはならずとも、一部だけ、例えばLDKだけに設置して、その範囲の基礎をさらに熱が逃げないようにする等工夫が必要でしょう。
そもそも床暖房に関しては、補助暖房としては素晴らしいものだと思います。床暖房を設置する際、どの方式を採択するか、消費ユーザーも良く勉強・検討して頂きたいと思います。
最後にこれだけは言っておきたいことが有ります。
どんな優れた暖房機器・方式でも、その性能を充分に満喫するためには、家そのものの断熱性を高めないと意味が無いと言うことを。性能評価制度、省エネ等級4は必修です。
写真左・中央・・・平成24年(2012年)日出団地の家
写真右・・・平成27年(2015年)ドットコム田崎本町(賃貸住宅1階部分の目玉として採用)