通り庭はこころの通り道「うなぎの寝床」

ユーザー 株式会社ローバー都市建築事務所 野村正樹 の写真

 間口が狭く、奥に細長い「うなぎの寝床」とよばれる敷地に建っている「京町家」。 一般的には、表通りに面してミセノマ(業務スペース)が取られ、奥へとオクノマ (居住空間)が続いている。そして、これらの表と奥をつなぐ土間スペースが「通り庭」と呼ばれる、 京町家独特の細長い吹抜空間である。庭といっても、そこに植裁や灯籠があるわけではなく井戸・水屋・竈(かまど)といった、現代でいうところのキッチン機能が通り庭には計画されていた。

この通り庭には、単なる人間の通り道の他にも、風の通り道・光の通り道といった機能もあり、それを介して、通風・採光を各部屋に確保する合理的に考え出された仕組 みになっている。高密度化した都市居住環境において快適な居住空間を形成する非常に重要な役割を果たしているのである。

先日、西陣にある一軒の京町家=写真を再生する機会に恵まれた。美しい通り庭を持つ京町家であった。現代において、ここでもう一度通り庭のもつ意義を再考してみると、そこには新しい発見がうまれてくる。従来の機能の他に、1階リビングキッチンと2階スペースに趣向を凝らし、通り庭を介して有機的に連結する。1階と2階をゆるやかに繋げ、いわば「こころの通り道」としての機能を、京町家の通り庭に挿入する。新しい「こころの通り道」は、幸せな暮らしや楽しい笑い声がこだまする空間として、 より一層の機能を持つこととなる。

荒廃した町家に、現代の息吹を加え、次世代へとつなげる。進化する町家再生のism。変わりゆく現代社会にあっても、先人の知恵を十分に活かし、学び取る姿勢が重要であると思うのである。