「コンバージョン建築」は、なかなかハードです

ユーザー 株式会社クレアール 井上英勝 の写真

コンバージョン建築とリノベーション建築の違いについて。
会社名にも使われるほど有名な固有名詞「リノベーション」。中古の木造住宅やマンションの一室をすっかり見違えるように模様替えを行って資産価値を高める手法として実施施工が盛んに行われています。「コンバージョン」はどうでしょうか。最近のインバウンド効果を期待してか、民泊に関する記事や民泊事業を促す士業の方々の広告、書籍を多く見るようになりました。「コンバージョン(conversion)」は、既存の建物そのものの用途を変更し、全面改装を施し次の時代を活きる建物に再生させる手法です。簡単に言えば「用途変更に伴う改装」。

私は2005年に比較的難題であった用途変更を経験しました。
地方から東京に進出を図る美容外科の先生が都心の一等地のビルを買いたいとのことで、不動産業者様と共にいくつかの物件を検索されていました。当初から診療所として使用する目的が明確であったので、そもそも診療所・病院の案件を推奨していました。しかし先生のお考えに沿わず、まったく予定していない案件を決めてしまいました。物件購入の際には、建築家の助言をぜひ聞いていただきたいのですが、時すでに遅しというわけで即決で契約されてしまいました。

土地建物の情報を知るべく関連資料を拝見いたしました。「事務所ビル」でした。さらに新築完成時の完了検査済証がありませんでした。つまり、このままでは用途変更が出来ないということです。診療所としての開業を目指す先生は「何とかしてくれ」と簡単におっしゃるので、私はかなり悩みました。それでも一つ一つの資料を確認し、管轄行政に直接出向き(当時は確認申請機関ではなく役所へ)どうしたら用途変更をさせてもらえるのか、ご教授を伺いました。答えは簡単、完了検査を受けてください、でした。

新築当時からすでに10数年が経過しておりますので、どうしたものかと悩みました。考えていても何も始まりませんので、竣工図面の建設会社へ直接、相談しました。当時の現場代理人の方とも接見出来、基礎構造や地盤の情報を入手し、再度、管轄行政へ。非破壊検査などというものまでは要求されませんでしたが、確認申請当時の形状に復原し、完了検査を受けることを条件とされまっした。クライアントの先生に完了検査に係る費用の承諾を受け、完了検査を受けることにしました。

完了検査には施行当時の基礎や躯体の鉄筋コンクリートの情報などを添付しなければなりません。建設会社の代理人様のご協力により、いくつかの資料を開示することが出来たのです。管轄行政の窓口(建築指導課様)と綿密にやり取りを重ね、最終段階に。用途変更の条件として事務所及び診療所という複合用途を選択しました。そして無事に「事務所」は、「診療所及び事務所」として生まれ変わりました。

最後に、用途変更をする大義名分と費用対効果の可能性があるならば、クライアント様の強い想いと共に戦いに挑む気持ちはあります。しかし、私は用途変更を簡単に進めるような建築家にはなりたくありません。

ジェットバス、お肌をつるつるにしてくれるバブルが出てくる当時の最新マシンでした。