家のつくり方と家の「価値」について

ユーザー 中川龍吾建築設計事務所 中川龍吾 の写真

家のつくり方は大きく分けて「住宅メーカーによる家」「工務店が造る家」「建築家/設計事務所が手がける家」の3種類があります。
今日、その多くは「メーカー住宅」、いわゆる規格化住宅です。
ここでは「家の価値」という観点から「メーカー住宅」と「建築家や設計事務所が手がける家」との違いを記してみました。
まずはメーカー住宅のメリットとデメリット等について取り上げた上で、建築家や設計事務所が手がける家との「家の価値」の違いについて考察します。

■メーカー住宅のメリット・デメリット、特徴など■

<メリット>
メーカー住宅とは、デザインや寸法、造り方等に関して国から一括して許認可を受けた住宅メーカーが、その許可を受けた範囲内で建てる住宅をいいます。

規格化をすることによって一棟ごとの住宅の許可を簡略化できること、またあらかじめ建築資材を大量に仕入れたり、工場でそれらを加工・組み立てをすることが可能なため、建築にかける費用を大巾にコストダウンすることが可能となります。

実際に建てるのはたいがい地元で提携している工務店で、メーカーの決まった工法である為、工事も簡便で効率がよく、特別な技能がない職人さんでも短期間の工期で作ることができるものとなります。

もうひとつは、名前が知られた企業(ブランド)であることによる安心感が挙げられると思います。
昨今は、利益最優先の企業体質による手抜き工事等のトラブル事例がたびたび報道で取り上げられたりはしますが、それでも上場企業に対するユーザーの信頼感は大きいものです。

<デメリット>
あくまで規格化により認可を受けている住宅ですので、設計の自由度は大巾に制限されるものとなります。

例えば、柱間とか階高など。それらの寸法は構造にも大きく関わるものですが、これらも当然認可を受けているので、通常はその範囲内で計画をする必要があります。
受けている認可条件から外れるものとするためには、個別に認可を受けたり特注で材料を手配する必要が生じる為、一気に建築費は高いものになってしまいます。
建具の仕様や仕上げ材等において、選定の自由度といった面でも同様のことが言えるものです。

ほとんどの住宅メーカーは「自由設計」と謳っていますが、住宅メーカーという業種である以上、必ず「決められた範囲内での自由設計」であることには変わりありません。
変形敷地での家づくりや狭小住宅が不得手なのは、これらの制約によるものだと思います。

また、こちらの活動のひとつであるセカンドオピニオンサービスにおいて、これまで住宅メーカーの平面計画(プラン)を見てきましたが、建て主さんの希望の間取りをそのまま図面化しただけのものであったり、動線計画やスペースの有効活用、自然採光・換気計画といった観点では、疑問点が多い事例をよく目にするものです。
おそらくは、設計のシステムであったり、設計者の力量といったものによるのだと思われます。

もうひとつは、建築に関わるコストが大変安価なのにも関わらず、建て主さんが支払う価格は、必ずしも安くないという事が挙げられます。
これは、建築工事費に加えて住宅展示場やCM等の広告宣伝費や営業関係の人件費等、住宅の建築費に大きく上乗せされる費用が非常に大きいためです。
建て主さんが支払う金額のうち、前述の建築工事費(=実際に受け取る建物の金額)は全体の6割以下と言われています。
つまり、建て主さんがメーカーに支払う金額の4割以上が建築の工事費(=建物金額)以外のものに対する費用であるということになるのです。
メーカー住宅で使用される建材が、ビニールクロスや新建材などのチープなものになりがちなのは、このあたりに起因するようにも考えられるものです。

■建築家/設計事務所が手がける家と価値について■

家を「価値」という視点で考えた場合、住宅メーカーによる家は、使われた建材や設備機器等のハードな側面のみでグレードが計られるものだと思います。
当然、築年数と共にその価値が下がっていくのは、一般的な車種の中古車などと同じようなものでしょう。

一方で、建築家や設計事務所で建てる家は、まずはそこで暮らす人にフィットすることにあり、建材や設備機器等の価値だけで計られるものではありません。

また、そこに住む人にとって暮らしやすく快適な家であることと同時に、築年数が経っても他者がこの家に住んでみたい、買いたいと思えるような家であることも、その家の「価値」となります。
もちろん、設備的には時代と共に古いものとはなりますが、それらは更新すればよいものです。

ここで「価値のある家とは何か」ということになりますが、私は以下のような家である事が必要だと考えます。
<機能的で合理的な、暮らしやすいプランの家>
<構造的にしっかりとした安心して暮らせる家>
<自然素材や自然な換気による健康的に暮らせる家>
<夏涼しく、冬暖かな、断熱性能のしっかりした家>
<時代を超えた、飽きのこないデザインの家>
<時と共に味わいが増す素材による家>
<技能を持った職人さんが丁寧に造った家>
<ランニングコストがかからない家>
<間取りの変更等に融通性があるフレキシブルな家>
<しっかりとした図面や改修履歴等が分かる家>

これらは、家づくりに精通、見識のある建築家や設計事務所が手がけることによってこそ実現が可能な家だと思います。
つまり、ハード面だけでなくソフト面においても長く価値が持続する家こそが、「価値のある家づくり」の方法だと考えるものです。

高度成長期前後に建てられた家を壊しては建て替えることを繰り返してきた時代から、これからは住宅を2世代から3世代に渡って快適に過ごせる家が求められる社会になると思います。
安定した社会や経済状況ではないが故のニーズとも言えるでしょう。
長い寿命を持つ家であり、次世代にも渡せる家を建て主さんには創ってもらいたいものです。

また今日、デザイナーズマンションは、新築でなくても一般のマンションに比べて高い価格で売買がされています。
戸建て住宅においても、価値が持続して流通ができる家を建てておくものとすれば、ライフスタイルに合わせて家を売ってその資金で新しい家に住んだりと、土地に加えて家も資産価値がある家とすることにもなると考えています。