技をつむぐ家 耐震リフォーム
昭和5年に建てられた町家の耐震改修と全面改装の事例です。当時では珍しい天井高の高い中廊下は出来るだけ当時の大工の技と雰囲気をそのままに改装しました。床は杉板拭きうるしを壁は漆喰塗りです。
古い建物なので隙間風などで冬とても寒かったことと、中廊下を挟んで台所と居間があったので、食事のたび不便な想いをしていたこと。耐震性は上げたいが東南に大きく開く雁行した広縁に耐震壁やブレースを入れて景観を壊したくないというご希望でした。
多くの工事店は耐震するのに東南の廊下側に耐震壁やブレースが必要と言われていたのに、当社はその景観を残したい、守りたいとお話ししたことらしいです。古きよきものを残したいという気持ちが前提にあるため、耐震は精密診断・設計を行い、補助金の申請・受領を可能にしたこと。
水回りは戦前の位置のままであり、暗く冷たい廊下を渡って食事を運ぶなどの不便極まりない動線を解消し、快適な老後を送れるようリビングの横に配した。当初中廊下を部屋に取り込んだ形でのプランを行ったが、大阪市教育委員会より文化財登録のため出来れば中廊下の雰囲気を残してほしいという要望があり、プラン変更を行い中廊下はそのままの形で残しながら活用できる提案とした。建具はほとんど既存建具を補修利用し、中廊下にあった波型のデザインも踏襲した。古い木の色に合わし高級感を持たせるため、床は無垢の杉板に拭きうるしを掛ける提案をして採用していただいた。
竣工してからも良いお付き合いが続いており、「非常に便利で快適になった。今までは食事のたびに面倒だと思っていたけれどキッチンに立つのがとても楽しくなった。代々残してくれた景観も変わらず守っていただいて本当に感謝している」とお喜びいただいています。現在のお宅と続きの商家が建っており、そちらの有効活用もご依頼を受けております。
当時から丸窓があったが、すぐ手前に襖がありあまり良く見えなかったので、手前に空間をとり玄関に入ると正面に効果的に見えるようにした。改装後、訪れる知人の多くから「すご~い!こんなのあったっけ?」と言われるようになり、丸窓が生きたと喜んでいただいています。
以前より居間として使っていた和室は柱、鴨井、長押など一切変えずに床下と天井裏で耐震性を確保してある。天井や広縁は張替えて断熱材を設置した。
居間と続く8帖の客間からは雁行した広縁から手入れされた庭が見える。この景観を守るために精密診断・設計が必要だった。木サッシやガラスも当時の貴重なものを再利用して、開きにくかった内部建具も既存利用して鴨井敷居を調整した。
仏間と控えの間から庭を見る。簡易耐震診断では必ずコーナー部辺りに耐震壁やブレースが必要になる。タタミ、天井の入れ替えやふすまの張替え、広縁床の張替えなどで当時の雰囲気に戻す仕様とした。
勝手口となっていた納戸を寝室に改装した。元々あった中二階を利用してロフトとし、壁に漆喰、床に杉板素地のままで柔らかい明るい部屋とした。新設の掃き出し窓は二重サッシとして、将来直接出入り出来るように配慮してある。太鼓襖を開けると丸窓前のホールにでる。
既存を広げ、洋式便器と小便器を付けたトイレは主に客用に使用する。暖かいコルクタイルを床に採用、壁は和紙調クロス、天井は杉竿縁、小便器前にはレトロな感じのイタリアタイルを施した。中廊下を挟んで寝室の前にはプライベートのトイレがある。
中廊下を挟んで不便だったキッチンは居間の横の前室と押入に設置したことで格段に便利になった。普段は居間との建具を開けてリビングダイニングとして利用されています。コルクタイルと現代的なキッチンは当時のままの建具に妙にマッチしている。