かみのっぽろの家
通常の天井高の1.5層分の高さのあるたっぷりした空間に、ロフトスペースを組み込み、その下を天井高を抑えた寝室コーナーとしました。中心に立つ白く塗られた斜めの壁をプランに持ち込み、日照時間の短い北国の冬、暖かい午後の陽をリビングに導く解決としました。45°の角度は地震の揺れに抵抗する耐力壁としても効果的であり、1.5層分の高さを持つたっぷりとした空気量のワンルームを、壁のこちら側とあちら側に分けてそれぞれの居場所を作り出します。また窓の外に向けた視線が最も遠くまで伸びる方向に壁の向きを傾けることで、空間の広がりが自然に感じられるよう意図しました。冬期は天井までの南の大きな開口部から陽が差し込み、暖かさを享受することができます。一方、北海道ではあまり見かけない庇をしっかり出して、夏の日射をカットし、年間を通じて穏やかな温熱環境を保てるよう工夫しています。
「市内の古い家に住んでいた、実家の両親の生活の様子を通して、2階のある暮らし、使いづらいお風呂や台所、冬の寒さなどが負担になることを実感し、老後の住まいが不便だと生活が大変だと感じるようになったことがきっかけで、それらを解消する事ができる家が欲しいと考えるようになりました。」
「家庭菜園やガーデニングをしながらの生活を思い描いた時、やはり木で造った家が良いと思いました。リフォームをした事例を実際に見せてもらったら、壁や天井、壁を埋め尽くす本棚にも木が使われていて、雰囲気が気に入ったことと、空気がやわらかくて、暖かかったので、安心してお願いすることにしました。」
老後に備えてご自宅に隣接した敷地に、終の棲家(ついのすみか)となる「離れ」を造りたいというご依頼でした。これから年齢を重ねていくご夫婦の生活を支えるコンパクトな平面、 定年後の新しい生活に活力を与え、ゆったりと呼吸できるような空間を目指しました。
東側の少したかくなった隣地に既に母屋が建っていたため、午前中も建物の影にならない位置に和室やキッチンを配置し、東の窓から朝日が入るよう工夫しました。また、東側のハイサイドライトからダイニングコーナーに差し込む朝日が、一日の始まりの時間を活気づけるようにと意図しました。
その一方で、リビングダイニングに午後も暖かい陽が差し込むようにする方法として、中心に立つ壁を斜め45°の角度に傾けることを考えました。光を反射するよう白い塗装を施したこの壁には、空間を広く見せる効果もある他、いくつもの役割を持たせています。寝室との間を緩やかに仕切り「居場所を造る壁」であり、冬は暖房用の温水パネルを敷設した「暖かい壁」、裏に廻った寝室側には、壁厚を利用し造り付けた「本棚の壁」に、地震に耐える「構造壁」としても有効に働きます。
脱衣室からトイレ、キッチンと水廻りは動線を繋げ、回遊できるようにしました。温水器置き場がある脱衣室は、ほんのり暖かく、洗濯物も良く乾きます。
基礎断熱仕様。壁は高性能24kgGWを充填のうえ、付加断熱GWボード50ミリ、天井は330ミリのブローイングを行っています。窓廻りはLow-Eガラスと樹脂サッシの仕様ですが、それでもリビングの大きな窓は、大きなガラス面からの下降冷気(コールドドラフト)が予想されたため、その解決法として足下廻りのみタイル敷きとして、温水床暖房パネルを敷き込みました。「雪で濡れた手袋や、靴を暖めるのにも便利です」と予想外の使い方でも好評を頂けました。
極力近くの材料を使うことを考え、内部は、あらわしの柱梁、壁面と天井を北海道産のトドマツ材で統一しました。トドマツは軽やかで清潔感のある樹種なので、家全体が優しい雰囲気に仕上がったのではないかと思います。木の持つ柔らかさや暖かみが足裏を通して感じられるように、床には厚さ38ミリの道南杉を、デッキ用の材にサネ加工を施して使用しています。キッチンや洗面台などの家具や階段の手すりは、針葉樹の中では比較的傷がつきにくく、年を経るごとに赤みがかっていくカラマツで統一しています。外壁は、トドマツの下見板をグレーで塗装。玄関廻りにはレッドシダーを使うなど、様々な樹種の持ち味を引き出しながら、色や風合いの変化を楽しめる家になればと考えました。
「たくさんの希望を出したのですが、ひとつずつ丁寧に、お互いが納得するまで案を出してもらって、殆どすべてが叶えられていますので、大満足の家になりました。具体的に言えば、バリアフリーであること、朝日が入る食卓を囲みたいことなどです。夏は涼しく冬暖かいのはもちろんです。面積は小さくても広く見えるのでとても気分が良いです。依頼して本当に良かったと思います。」
隣地に建つ住居の「離れ」の計画。隣地はもともとご依頼主のご両親の土地で、これまでは家庭菜園のスペースとして活用していました。成長した庭木を活かしつつ、隣地の母屋が極力日陰にならない配置を考えました。矩形の輪郭にするとやや西を向いてしまう壁を真南に正対させ、温熱環境に配慮し、「離れ」にとっての「母屋」にあたる隣家に寄り添わせ、話し相手の方に身体を傾けるような身振りを持つ外観としています。外壁は、トドマツの下見板をグレーで塗装。玄関廻りにはレッドシダーを使い、時間の経過とともに愛着を持ちながら住まい、町並みの一部として馴染む外観を考えました。
1.25坪ある玄関から室内へは、上がり框を設けずフラットに繋がるようにしました。マットを敷いて、靴を脱いで室内へと上がります。
午後の陽が差し込むリビング。セカンドライフを想定し、コンパクトな平屋にロフトを備えたミニマムな空間としています。家具もできるだけ置かず、シンプルに暮らせるよう考えました。壁や天井に張ったトドマツ合板は節が多く主張が強いため、中央に立てた斜めの壁は白で塗装し、バランスを取りました。カーテンもツヤのある無地のファブリックを採用し、全体の調和をはかっています。
1.5層分のリビングダイニングから周囲を玄関、和室、キッチン、他水廻りが取り巻く構成。全ての居室が一続きとなったワンルームのような空間のなかに、高低差や色と光のバランスを取ることで、視覚的な変化と調和を楽しめるようにと考えました。
ダイニングコーナー。家具の提案もご依頼いただいたこの家では、赤みがかった木肌のレッドチェリーのダイニングテーブルと椅子を配置しポイントにしました。家具のセレクトによっても、様々な樹種が共存する空間のなかで質感や色味の調和を楽しむことができます。
3畳+アルファの小さな和室。ワンルームの中にも、天井が低いスペースがあると落ち着きます。籠って本を読んだり、正面の窓を頭に布団を敷くことができる寸法としており、来客が1〜2名宿泊できる広さがあります。
斜めの壁の裏側を主寝室としました。天井高を抑えて、落ち着きを持たせています。壁の半分には放射暖房を設置し、もう半分は構造を露出しながら本棚に。蔵書のサイズを伺い、A4や単行本がぴったりと収まる高さに棚板を設置しています。好きな本を少しづつ並べ、増やしていくプロセスを楽しまれているそうです。
キッチンはカラマツ材の三層パネルで造作しました。3畳ほどのコンパクトな空間を機能的に使えるよう、瓶類をしまえるスライドストッカーを組み込んだり、冷蔵庫置き場をダイニングの近くに配置し動線を短くする工夫をしました。また、袖壁に調味料を置けるニッチを設けたのは、母屋でもキッチンのコンロ廻りに調味料を並べてお使いだったため。ここでは、外壁とイメージを合わせたベージュグレーの塗装に、白いつや消しのタイルの組みあわせとしました。キッチンなど水廻りは、細かい使い勝手が日々の生活に影響しますので、依頼主の暮らしにフィットするよう特に心がけています。
洗面所は天井を高めにし、開口部を大きく取った高窓から自然光を取り入れ明るく清潔感のあるスペースとしています。一部を滑り出し窓にすることで、換気にも配慮しました。床はリノリウム敷き。天然素材ならではの優しい足触りを楽しめ、比較的メンテナンスもしやすい仕上げです。要望に合わせた数の引き出しを設けた洗面カウンターには、ヘアブラシやドライヤー、洗剤のほかタオルや下着を収納することができます。
「日常的に使わない物の収納や、孫が泊まりに来ることができるように」と要望だったロフトスペース。正面の窓から垣根を望むことができます。
機能的には「平屋+ロフト」の計画ですが、法的に平屋にこだわる理由が無かったため、使いやすさを優先して一部立って歩ける天井高さを確保し、法的には2階建てとしています。