枠の内のある家
枠の内を内部に取り込んで、歴史を感じながら過ごす
東京から金沢に転勤し、新たな住まいを建てる中で、歴史の重みを感じられる空間を造りたい
古民家に慣れている設計事務所、原価で建てることが出来る設計事務所
古民家で歴史を刻んできた、枠の内を取り込んだ家
2階あるリビングから道行く人がよく見える。新居に引っ越して2ヵ月あまり、通る人通る人が我が家を見上げていく。ご近所の家々とは外観もちょっと違うけど、大きな窓から見える枠の内の一本一本の柱が何だろうと不思議みたいだ。さして大きくない普通の家の中に古民家にあった柱がど~んと座っている我が家。「どうしてこんな家を?」とよく聞かれるけど、どうしてなんだろう。昨年6月、「家を建てるなら分離発注がいいよ。やっている人を紹介するから」という友人の紹介で杉山さんと上田さんに会ったのが出会いのはじまり。分離発注が何かも知らず、ただ「ローコスト」という友人の言葉に魅力を感じた。家ができあがるまでの約半年間、毎週一度、夜7時からの打ち合わせは9時を過ぎることもたびたびあった。家の話はもちろん、お互いの趣味や子どものことなど繰り返しの話し合いを通して不思議と「信頼」が生まれてきた。家を建てるということは洋服や家具を買うのとは違い、失敗しちゃったではすまない。だからこそ設計士には任せても大丈夫! と感じる何かがほしいと思う。ホッとできる家、いろんな人が気楽に集える家、メンテナンスが大変でない家などという私たちの思いを受け、二人が一つひとつ形にしてくれた。図面だけでは実感がもてないという夫には模型で、地震は大丈夫かという私には建築前に鉄工所で実際に使う鉄骨の柱を見せて説明してくださった。また、床材や外壁、玄関の石など実際の見本をもってきての説明で私たちの不安や疑問を一つひとつ丁寧に解決していってくださった。いつの間にか週一度の打ち合わせが待ち遠しくなり、私たちは“自分の家をつくってる”という気になっていった。今年は暖冬だとはいえ北陸の冬はどうしてもじめじめというイメージ。でも我が家は乾燥し過ぎるというくらいに湿度が低く、加湿器が必要かなぁと心配するほどだ。だから洗濯物がよく乾く。また、断熱材のおかげでそんなに暖房機をつけなくとも暖かい。和室の壁は主人が塗った。素人の仕事だから剥がれてくるのではという疑問に杉山さんはさらりと、「そうなったらまた塗ればいいんですよ」と。そういえば玄関のクロークの取っ手のまわりがちょっと汚れてきたけど、サンドペーパーで磨けばいいし、床も色が落ちてきたらまた私が柿渋を塗ればいい。できあがったものを汚れないように、傷つけないようにするというこれまでの家へのイメージとは違い、我が家は住んでる私たちが生活に合わせて自分たちの手で変えていけるような気がする。楽しみがまた増えた。分離発注のことはまだよくわからないけど、このやり方では家づくりに携わる一つひとつの業者さんと私たちが直接契約をすることになる。それを束ねるのが杉山さんだ。だから支払いが大変だった。何十枚もの振り込み用紙を書き、銀行へ何度足を運んだことか。でもおかげで、鉄骨を組んだのはあの業者さんで床をはったのはあの業者さん。窓はあの人、扉はあの方々……というふうに工事箇所とそれに関わってくださった方々の顔を思い出すことができる。家とは、施主と設計士、建築関係者が絡まり合いながらつくっていくものだとすると、まさしく我が家がそうだという気がする。楽しみの多い家をつくってくださった杉山さん、上田さんとはこれからもメンテナンス等々での関係は続くだろうけど、施主と設計士を越えたおつきあいを続けていけたらいいなぁと思っている。ほんとうにありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。(A・T)
内観写真
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