積日隆替家屋
築100年以上の歴史のある京都の古い町屋の改修・増築の計画。
外周には京都らしい趣のある高塀を張り巡らせ、外界を完全にクローズした静かで広々とした住環境を持っていた。建物を含めた敷地一体は、もはや街に定着し、通りの美観を形成する佇まいである。そのため、増築部分の外観は出来るだけ既存の建物を表に立てるよう、ある程度引きを持たせた計画としている。内部は、大きく3つのゾーンに分かれる。1つは、今回具体的な計画からはずされた座敷等の既存部分。もう一つは、40年ほど前に使われなくなった土間を造り変えLDKとされていた部分の改修。そしてもう一つは、既存の古い建物から心太(ところてん)のように現代的な形態と素材が押し出された形で造られた、水周り、キッチン、洋室等の新たに増築される部分。ここでは、今回計画からはずされた部分を過去、増築部分を現代と捉え、改修部分を現代と過去を繋ぐ緩衝帯として中間的に位置づけている。老朽化したところを改修し、また必要なものを増築しながら、天井を取払い、もともと意匠材として現しであった力強い小屋組を再び蘇らせた。それはまさに、新しくしていく過程と同時に、元に戻していく過程の並列した状態を維持し続けることを意味する。全体的な計画の手法としては、段差の解消と耐震補強を踏まえながら、意匠・構造・設備的に耐えられなくなったものは取除き、好ましい部分を残してゆく。そして、足らなくなったものを付加え、壊れている部分は必然性があれば復元する。そんな無骨ではあるが、合理的かつ経済的な方法をとっている。
京都の街を歩くと、新旧のどちらがメインでもサブでもなく、それぞれが上手く共存していることが感じられる。同じくそれを住宅レベルに落し込み、歴史的なものは歴史的なもの、現代的なものは現代的なものとして等価に向かい合わせる。その姿が、スクラップ&ビルトでもなく、保存の方向でもない、新しい住宅の在り方に対する一つの解答となればと考えた。
庭
増築部分外観
玄関
ホール
小屋裏
リビング/ダイニング
格子ディテール
全景