zubeneschamali
外観全景
南側に中層の集合住宅が建つ、冬季の日当たりがほとんど期待できない敷地での計画です。最初に現地を見た時には自分も少し唖然としたのですが、このような敷地だからこそ成立するかたちがあると思い模索をはじめました。
南側に建つ建物は東西に長く箱型であるため、今回の敷地に落とす影の位置は日中ほぼ変化せずある意味安定しています。そこで冬至の日照を中心にどのような形状にしたら明るく過ごすことができるかを検討しました。
通常の考え方で南側に庭を配置して北に家を配置すると、常に影となる集合住宅の北面を眺めながら、直射光も2階部分にしか差し込まない住宅が出来上がることがわかり一度検討終了…。オーソドックスな案からスタートして基本配置をいろいろ試行錯誤しながら、最終的に建物を南側に配置し庭を北側に抱きかかえるかたちにたどり着きました。
このかたちに至ったのは屋根の高さは年中通して日照が期待できたこと、北側に庭を配置して壁を設置することで壁面が日射を受けてくれるので、家の中から明るい面を眺めることができることなどが主な理由なのですが、2階の床をルーバー材(スノコ状)にすることで、天窓の明かりを1階まで届けることができる仕組みや、段階的に天井高を変化させて自然と風が流れる断面を検討しながら、詳細を掘り下げていきました。
この家は南北方向の基本断面形状が東端から西端まで全く同じという自身初の試みを行っています。いわゆる金太郎飴のようなかたちで構成されたプランです。家の中の最外周を1、2階ともに回遊することのできるので見通しも良く、結果的に光、風、空間が全て抜けの良い稀有な構成となったと思います。
敷地の特性上、初期の施主からの要望の大半は、暗さと寒さの不安で占められていましたが、完成した住宅に入居いただくと、明るさや温冷感でのワードが全く登場せず、生活の一部として住宅が受け入れられていることに多少の達成感を感じることができました。
土地や周辺環境的にはあまり恵まれているとは言い難いかもしれない環境の中、北と南がが反転したような非一般解としての住宅プランなのですが、出来上がってしまうと不思議と普通にこのかたちで存在していたかのような、そんな少しだけゆっくり時間が流れるおうちとなっていることを願っています。