骨董の蔵戸を再利用したマンション改修

LDK全景。正面に見えるキッチンのバックパネルは框つきとし、右端のくぐり戸付き蔵戸のデザインと調和させている。
東京湾岸の集合住宅の1住戸を改修するプロジェクト。
施主の要望のひとつは、骨董の建具を活かした空間づくりだった。日本の伝統的な蔵に用いられてきた蔵戸は、貴重品を守るため堅牢な木材で作られており、装飾性と実用性を兼ね備えている。今回のプロジェクトでは、意匠の異なるアンティークの蔵戸を4枚探し出し、新たに設けた開口部に合わせて、丁寧に修復を施した。日焼けや、分厚い塗装が施されたものなど、色味や風合いはバラバラだったため、一度すべての塗装を剥離。杉、檜、欅といった美しい無垢材の木目を蘇らせた。また、希少なアンティークのダイヤガラスを嵌め込み、デザインのアクセントとしている。
平面計画では、かつての狭すぎる三室を持つ3LDKから、ゆとりのある2LDKへと変更した。新たなLDKには和室を隣接させ、ひと続きの空間として構成。襖を閉めることで個室となり、ゲストの宿泊にも対応できる柔軟な設計としている。主寝室と浴室の間は強化ガラスで仕切られており、開放的な浴室からは寝室越しに東京の夜景を望むことができる。強化ガラスには調光フィルムを施し、さらに寝室側のウッドブラインドを下ろすことで、浴室のプライバシーも完全に確保できるようになっている。浴室は特注のユニットバスの上に檜の浴槽を据え、壁には檜ルーバーを配し、床と腰壁には十和田石を用いることで、高級感のある空間に仕上げた。トイレや寝室の廊下からは、キッチン背面の小窓を通して外の景色や光を取り込めるように計画し、住まいのどこにいても自然光と眺望を感じられるよう配慮している。
仕上げには、環境と身体に優しい自然素材を採用。チークのフローリング、オーク突板、火山灰を主成分とする薩摩中霧島壁、ワラスサ入りの土壁など、多彩な素材を用いている。和室の壁には、藍染のグラデーションを施した阿波和紙を張り、窓の外に広がる川や海の風景と呼応させた。キッチンのバックパネルには、小さく分割された框扉を用い、蔵戸の格子組と連続性を持たせたデザインを採用。新旧が調和し、空間に独特の品格をもたらしている。伝統と現代の要素を織り交ぜ、自然や暮らしに寄り添う感覚を日常の中で味わえる空間を目指した。









