石垣島のオフィス

石垣市に建つキャドセンターのプロジェクトである。
純粋な自社オフィス機能だけではなく、都心からのワーケーション、近隣住民に開いたイベントスペース、貸しオフィスといった多様な役割を持つ建物である。
様々な使い方が想定されることから、建築自体は鉄筋コンクリート3階建てで、梁型のないフラットなスラブと壁状の柱によるシンプルな構成とした。
1階はキャンピングカーやキッチンカーが駐車でき、イベントが開催できるオープンスペース、2階は作業用の個室と、中央に植栽されたベンチのある共用ラウンジとし、3階は主にワークショップや食事ができる広いスペースがあり、テラスにつながる様に計画した。各階において壁柱がX軸Y軸方向に配置され、それが居場所を作り出している。
各フロアの外周にはコンクリート製の手すり壁が設置され、フロアごとに手すり壁の出幅を変えることで台風時の強風や雨、夏の日差しをコントロールしている。
全体としてずれながら重なり合うコンクリートのリングは、この建物の輪郭を形成し、この建物の中に沖縄の伝統的な半屋外空間「アマハジ」を作り出している。
石垣島で生まれた人は生涯に一度は島外へ出る。何故なら市内には進学先の専門学校や大学がなく、就職先も限られるからだ。石垣島は観光を主な産業としているため、技術を習得して就く職が少なく、島内出身者が島外へ出ることなくそのまま就職するケースはかなり稀らしい。
川崎市内に本社及び工場を持つ本プロジェクトの施主は、製造の過程で必要となる作図業務をCADセンターという形で本社とは別に拠点を設け、新たな働き方、そして、新たな雇用を生むことを目標に石垣島を計画地として選定した。また、島内の工業高校と連携を図り、技術指導などの交流を設けることで、雇用に繋げる計画だ。
海岸線に近い計画敷地を訪れた際、周囲を見て回ると、伝統的な琉球形式の木造住宅はほとんど存在しなかった。代わりに雨風に強い鉄筋コンクリート造の住宅が多く、それらの住宅には屋根付き屋外テラスが設けられていた。石垣島は真夏には30度を超える亜熱帯海洋性気候であるが、屋根下の日影などでは真夏でも快適に過ごすことができる。

正面の琉球瓦の庇は、景観条例によるもの。

強い日射から守り、影をつくる3階テラス。日陰であれば屋外で快適に過ごすことができる。

2階オフィスのラウンジ。植物を囲むベンチ席。