桜ヶ丘コートハウス
敷地が陶磁器の町多治見であるため、外壁はタイル張りとしました。
敷地が道路面より約1.2m程高く、地元の川からとれた黒曜石に似た黒光りする石垣で出来ていて、施主からは「その石垣に似合う家にしてほしい」と頼まれました。また建築の歴史に詳しく建築が大好きな施主であることから「廻りに建っている建売やプレファブ住宅を見て暮らす事が楽しくないから、いっそのことコートハウスではどうだろうか」と提案があり、それを受け入れました。当時私は、玄関の無い家とか塀を巡らしただけのコートハウスには否定的な考えを持っていましたので、出来るだけ環境に背を向けたものにしない為にファサードのある家として正面のある家にする為に苦心しました。本来ならば出来る筈のないコートハウスでの正面を造る事が出来たのは、敷地の高低差を利用できたからだと思っています。
そもそも施主が自分で設計して住んでいる山荘の前に私の設計した山荘ができ、それを工事中からご覧になった施主がアマとプロの違いを思い知らされたと、勤めていた設計事務所に訪ねて見えられ住宅を設計してくれと頼みに来られました。アルバイトでは住宅の設計監理は出来ませんと断ると、2・3か月経った後でいっその事、事務所を独立して設計してくれと弟さんの家と二軒一緒に頼みに来られ、独立するきっかけになりました。
初めて敷地を訪れた時、そこは新たに計画された新興住宅地の一角でまだチラホラとしか住宅が建っていませんでしたが、そのほとんどの住宅が建売かプレファブ住宅で、屋根の色の違いだけでかろうじて自分の家と分かる程度の同じような住宅が建ち並び、全く地域性を感じる事ができませんでした。やがて、すべてがその様な住宅で埋め尽くされることは容易に想像でき、設計では地域性を生かすことを最重要課題としました。また初めて敷地を訪れた施主は、道路から1m位上がった敷地を近くの川から取れたという黒曜石に似た黒い肌合いの石積で盛り上げているのが気に入って買ったので、この石積に似合ったものにして欲しいと希望を出されました。上記の二つの理由から、陶芸の町ならではの多治見に建つ家として外壁をタイル張りとする事は設計当初から念頭にあり、出来れば敷地の土が自然と盛り上がって出来た陶器の様なものにしたいと考えていました。
施主からは、廻りを気にせず暮らせるようにコートハウスではどうだろうかと提案があり、賛同し受け入れましたが、私は当初、環境に背を向けて塀を巡らし外観の無い内部空間だけを充実させるコートハウスには否定的な考えを持っていました。この住宅では、出来ればコートハウスとしての利点である外界から内部空間を遮断でき、外観としても環境に配慮したファサードを持つものにしたいと、本来ならば出来る筈の無いものに挑戦しました。それを可能にしたのは、敷地の高低差を利用できたからだと思います。間取りは寝殿造りからヒントを得て、居間の前に中庭を配し、それを囲むように左右の渡り廊下で繋がれた、まるで離れの様な客間と寝室とを造る事でプライバシーにも気配りしています。また木造建築にタイル張りという難しい面もありましたが、平屋にすることでタイルの落下時に於ける被害も最小限に留める事ができると考え実行しました。タイルの張り方にも拘り、最近ではめったに見ない飛びフランス張りを採用することで、少しだけ知的な雰囲気を醸しさせたと思っています。
居間、右手は中庭。
居間から中庭を見る。
間取りは寝殿造りから引用し、居間を寝殿とし左右に渡り廊下で寝室と客間を配置しています。
浴室外の内庭