わかたけの杜東棟
「わかたけの杜」神奈川県青葉区の緑豊かな保存樹林に隣接した、全66戸の戸建て風のサービス付き高齢者住宅です。最大の特徴は低層分棟連結型という、車椅子利用者の2階住宅へのアクセスに配慮した、空中歩廊による「路地」のネットワークです。
建築主からの要望
・依頼者である社会福祉法人理事長の夢である、高齢者のための地域包括ケアが完結した施設として、「これまでに無い革新的な施設を作りたい」との情熱と熱意に押されて、この種の施設としては新しい、低層分棟連結型の施設を実現しました。
・敷地内の1/3を占める横浜市保存樹林の景観が西側に広がっていたことから、依頼者から「都心に近い立地ながら、土に近い暮らしを実現してほしい」との要望がありました。
・周辺住民にご迷惑をおかけしないように、保存樹林の眺望を遮らない低層施設を希望されました。
・南北に隣接する同じ社会福祉法人が運営する介護老人保健施設と・特別養護老人ホームとがあるので、「既存等のサービスの連携に配慮してほしい。」とのご要望がありました。
・採算の合う住戸数の確保と建設費の実現。
・国土交通省「高齢者・障害者・子育て世帯居住安定化推進事業」の国庫補助へ応募したいというご希望があり、申し込みを行い、見事選定されました。
・「手厚いサービスを目指して、24時間在宅介護・看護事業所、24時間在宅療養支援診療所を併設させたい」というご希望に対し、都市的施設を提案して実現しました。
・福祉系大学やNPO法人との連携を可能にするボランティア室の設置のご要望があり、実現しました。
・入居者が全員そろって食事をするレストランやイベントに対応したラウンジのご要望に対し、中心施設であるセンターハウスを提案しました。
・アクティビティ拠点、ボランティア拠点となる部屋の設置。
依頼者である社会福祉法人理事長から、「医療福祉建築賞受賞者であり、これまで革新的な高齢者施設、高齢者住宅、グループホームなどを実現してきた実績のある設計者に仕事をお願いしたい。」とのお話を知人を介していただき、ご依頼いただきました。
「わかたけの杜」神奈川県青葉区の緑豊かな保存樹林に隣接した、全66戸の戸建て風のサービス付き高齢者住宅です。工事中に全ての住戸が予約で埋まる大盛況でした。
住戸は入居者の生活の変化に応じて、可動間仕切りと可動家具を移動することで、間取りの自由な変化を可能にしています。また、町屋格子にヒントを得た細かい穴が空いた折板によるスクリーンによって、プライバシーを守りながら穏やかな気配を感じると同時に、街全体に調和をもたらしています。
センターハウスは2階住戸へ車椅子や足腰の悪い高齢者がアクセスするためのエレベーターを持ち、共用の食堂とリビングがあります。ここでは準耐火建築物でありながら、木の門型フレームが連続する天井の高い居心地の良い共空間を実現し、リゾートのラウンジような場所にしました。各住戸は2階部分で空中歩廊によって立体的に連結されることで、上下の路地の視線が交わり、入居者のコミュニケーションを誘発します。
内外に使われている材料はすべて安価な既製品を使用していますが、その組み合わせや納まりを工夫することでローコストでありながら、美しいデザインを可能にしています。
高齢者住宅におけるこれらのキメの細かい工夫は、若い人が暮らす戸建住宅や集合住宅にこそ必要なアイデアであり、ず快適に暮らせる住環境を実現するものです。
この施設は国土交通省平成24年度高齢者・障碍者・子育て世帯居住安定化推進事業による国庫補助に関東で唯一選定されました。
「小規模な地域包括ケアを低層の施設を連結した都市的施設として実現していただきたことを大変評価している。」
「竣工後は高齢者福祉関係や建築学会などの見学者が絶えず、今後この施設をより生かした取り組みを頑張行っていきたい。」
「あんまり良いので思わず飾る絵を買ってしまいました。」
など、嬉しいお言葉を頂戴しております。
◯センターハウス夜景
施設の玄関となる中心施設です。2階の入居者のためのエレベーター、レストラン、ラウンジ、コンシェルジュ(スタッフ室)などが入っています。
視線の抜けを慎重に制御した開口部によって魅力的な外観と奥行きを与えています。外壁の金属サイディングに開けた開口部から、内部の木柱による暖かいインテリアが見え、モダンでありながら入居者の憩いの場として機能しています。
撮影:北嶋俊治
◯センターハウス食堂
木柱梁の門型フレームの連続と白壁のコントラストと、高い天井の上部に設けた磨りガラスによる開口部から、拡散した柔らかい太陽光が降り注ぐ教会のような空間です。
日々の食事の場所として、住戸にはない豊かな空間が必要と考え、リゾート施設のレストランのような場所にしました。
撮影:北嶋俊治
◯センターハウス ラウンジ
白い食堂に対して、黒壁のコントラストによるより落ち着いた空間です。中央に設けたアイランドキッチンは壁持ち出しのフードと共に内装と一体的にデザインしました。料理教室やパーティー、流しに蓋をすると作業台にもなり、多目的な利用が可能です。高齢者施設の空間ずくりは住宅の設計のきめ細かさが必要です。
撮影:北嶋俊治
◯住宅(50㎡)内部
南側には1間幅(1.8M)のバルコニーがあり、床とフラットでつながっているので、室内と連続して見えます。有孔折板のスクリーンはプライバシーを守ると同時に柔らかい太陽光を届けます。写真右側の可動家具が押入れの奥行きがある特注品で、クロゼット部と布団が三つ折りで入る押入れ部で、半分に分割可能で前後を入れ替えることができます。間仕切りは割れずに安全な磨りガラス状の樹脂でてきています。閉鎖しても障子のような優しい光を通すので、圧迫感がありません。
間仕切りと可動家具の自由な移動によって、ワンルームから2LDKまで入居者の好みに合わせたカスタマイズを可能にしています。
撮影:北嶋俊治
空中歩廊「上の路地」:車椅子や足腰の弱い方が2階住宅へアプローチするてめの通路「上の路地」です。上下の路地の視線が交わり、入居者のコミュニケーションを誘発します。
撮影:北嶋俊治
外部通路「下の路地」:住戸の玄関は向かい合うように計画しました。日々の生活で挨拶などの会話が交わされることで、穏やかな見守りを作り出します。
住戸の雁行平面による外壁の出入りはそのまま街路に影響し、単調で真っ直ぐな路地ではなく、細かく曲がり角がそこかしこにあり、上部を横断する「上の路地」とともに人々の視線が交錯し、より魅力的な街並みを作り出しています。
撮影:北嶋俊治
◯住戸外観
1階と2階を1間(1.8M)ずらすことで、広々としたバルコニーを確保しました。有孔折板のスクリーンは伝統建築における町屋格子と同じで、昼は外から内部は見えませんが中からは見える工夫です。住戸ごとに仕上げを変えることで「我が家」を視認でいるように工夫しています。
撮影:北嶋俊治
住戸は可動間仕切りと可動家具によって、健康な状況から要介護になった場合の生活の変化、入居者の希望、パートナーがお亡くなりになった場合などの入居人数の変化に応じた様々なプランニングの変更が可能です。