千里のお茶の間
マンションの一室の小さな改装工事です。
古材の梁と古材の障子を使用しました。とてもいい具合に元々のリビングルームと新しい和室を結び付けてくれています。自然素材の潜在能力が心地よさを助長してくれました。
マンションの一室を和室に改装したいというお話を戴きました。
きっかけは、腰痛持ちでベッドでは眠れないパートナーが、
フローリングの床に布団を敷いて寝ていることに抵抗があるので…と。
そして、どうせ改装するんだから炉を切って自分たちの楽しみ方でお抹茶を戴けるようにしたい…
というお話でした。
雰囲気だけでいいので、炉は切りますが本格的なお茶室はいりません。
だから「お茶室」ではなく、強いて名づけるなら、現代のお茶の間です。
最初にお伺いして現地を見せていただいた時に、
和モダンとも言える趣味のいいリビングに違和感なく和室を埋め込むためのエレメントとして
古材の梁が最適だと直感し、提案しました。
その場でOKをもらい、計画に盛り込みました。
計画が進むうちに、障子も古材でいいのが見つかればいいな…と探し始めました。
幸い、想定した形状にぴったりの梁と両面組子で線の細い粋な建具が見つかりました。
いい出会い、いいタイミング…何もかもがいいご縁のおかげだと思います。
結果的に、小さな工事の割には考えることの多い、いろんな意味で中身の濃い工事となりました。
土・木・紙・竹…
古来から日本の建築を支えてきた素材で出来上がった空間は、
その技術の確かさやディテールの表現も手伝って、
想像の枠を超えた絶妙な「やさしさ」を生み出します。
そこには、日本文化の奥深さと奥ゆかしさが感じられます。
このマンションのなかに埋め込んだ和室の改装工事で、
そういう意味での技術やディテールの大切さを再確認しました。
マンションの割り切られた空間の中だったから、より強く感じたのかもしれません。
しかし、この「空間のやさしさ」は写真ではなかなか伝わりません。
空間体験しないとわからないし、
やさしい心で感じないと感じられないような遠回しな空間性能は、
その良さに気付かれる前に避けられ、どんどんその需要は減っています。
見た目のインパクトが少なく、モダンさが感じられないのも避けられる理由だろうし、
メンテナンス性っていうのも理由の一つに挙げられると思います。
でもこういう空間には、ちょっと佇んでから「…やっぱりいいねぇ。」って、
思わず口をついて出るような空気感があるんです。
私はそんな空気感を大切にしたいと思います。
和室なんかいらないというライフスタイルが主流になり、
マンションにも和室のない間取りの部屋が増えてきました。
そんな時代に、敢えて和室に改装したいというお話を戴けたことがとてもうれしかった。
多機能な和室の良さを再確認し、
ささやかながら、和室文化そして日本文化を見直すきっかけになればと思っています。
殺風景なマンションの一室が心落ち着く優美な和室に変わりました。想像以上の出来上がりに大満足です。